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大阪高等裁判所 昭和41年(ネ)1900号 判決 1967年8月09日

控訴人(被告) 株式会社兵庫相互銀行

右訴訟代理人弁護士 永沢信義

他四名

被控訴人(原告) 大阪土地建物株式会社

右訴訟代理人弁護士 山本良一

他一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

<前略>。当事者双方の事実上の主張証拠の提出援用認否は控訴代理人において被控訴会社の請求を争う理由として

「一、控訴銀行は商法第一八九条所定の払込を取扱った銀行に該当しない。

(一)  被控訴会社主張の増資手続において昭和二九年四月一二日頃に至って二五、〇〇〇、〇〇〇円相当の失権株を生じた。従ってその後に控訴銀行の各支店が右増資に関する株式払込取扱銀行の指定を受けることはあり得ないし、又控訴銀行は被控訴会社の取締役個人としてならば兎に角被控訴会社からこのような指定を受けた事実はない。

(二)  仮りに被控訴会社が控訴銀行大阪支店並びに京都支店を払込取扱銀行に追加指定したとしても

(1)  それは商法第一七八条に所謂払込取扱銀行の変更に該当し、被控訴会社は裁判所の許可を受けるべきにも拘らず許可を得ていない。そしてこの許可を必要とする法意は預合を防止することにあるから、商法第一七八条は執行法規と云うべく、被控訴会社が控訴銀行を払込取扱銀行に指定したとしてもその指定は無効である。

(2)  被控訴会社の株主に対する新株引受申込期日である昭和二九年四月一〇日を経過し尚申込未了により引受権を失うものが多数であった。そして引受権失権の時期を伸長することは株主平等の原理から許されないところであるが、被控訴会社が特定の株主にのみこの期限を伸長するために控訴銀行に対しこの株金の払込取扱銀行となるよう指定したとしても、それは右の見地からすると新株引受申込期間経過後の指定であるから法律上意味はなく、従って控訴銀行は商法第一八九条の払込取扱銀行に該らない。

(3)  仮りに被控訴会社が右申込期日を経過して失権した新株引受権について期限を伸長することにより新株引受権を与え得るものとしても、被控訴会社はこのため取締役会或は株主総会を開いてこの旨決議した形跡なく、架空名義人に対し新株引受権を附与する形式をとったものであるから結局新株引受人は存在せず、存在しない引受人のために存在すると云う株金払込取扱銀行はあり得ないから、控訴銀行が払込取扱銀行の指定を受けたからと云って控訴銀行は商法第一八九条の払込取扱銀行と云うことはできない。

従って孰れにしても控訴銀行は商法第一八九条の払込取扱銀行に該当しない。

二、仮りに控訴銀行が払込取扱銀行に該当するとしても本件の場合は商法第一八九条第二項に該当しない。

(一)  商法第一八九条第二項は株式引受人と銀行又は信託会社との間で現実に払込がないのに、あったように仮装するとか、或は引受人が銀行等より借入れた金額を弁済する迄会社預金となった払込金を会社に引渡さないことを条件として寄託する等返還の制限についての約束があっても銀行又は信託会社が保管証明書を以て払込があったことを証明した以上は右約束を以て第三者たる会社に対し対抗できないと云うことを意味し会社は銀行又は信託会社に対し第三者的立場に立つものである。ところが本件にあっては被控訴会社が失権株を除外して変更登記をすることは会社の体面にかかわるものとして代表取締役阪上信章等が共謀の上、仮装払込の手続を執ることとして虚無人名義の株式申込証等を被控訴会社株式課で作成させ、その他の手続一切を和田信章に委任したのであるから、この虚無人名義を以て仮装払込をしたのは被控訴会社自身であり、会社は株式引受人となり得ないことは明白であるから商法第二〇一条により株式引受人たる責任を負うべき者は存在しないことになる。

従って本件仮装払込は被控訴会社と控訴銀行との間でなされたこととなり会社が第三者的立場に立つ預合には該らない

三、仮りに預合に該るとしても本件の如き場合には次の理由により同法第一八九条第二項の適用はない。

(一)  被控訴会社は悪意であり且保管証明書の不真正なことを知っていたものであるから右法条により返還責任を負わない。蓋右法条は禁反言の原則に基くものであるが、この原則は相手方が行為又は証明による表示を信じ之に誘動されて行動した場合に限って適用されるものであって、相手方がその表示が不真正なことを知っていた場合には適用なく、更に自ら不真正な表示によって相手方を誘動した場合には、その相手方の表示に対し禁反言を主張することにできないと解せられる。

従って商法第一八九条第二項は会社が右保管証明書を真正なものと信じた場合、即善意の場合のみに限り適用されるものである。

(二)  被控訴会社は右払込の保管が虚偽であることを事前事後に承認している

(三)  右法条は所謂預合につき事実の引受人に代って払込金を会社に支払うのであるから、銀行が支払った場合銀行は当該会社に代位して真実の引受人に支払金を求償することができる場合であることを要するが、本件の場合は引受人は架空人であるから控訴銀行は引受人に支払金を求償することができない。そして何人も損害賠償以外に民事罰としての出捐を義務ずけられる理由がないから、このような場合本条が適用されるとすれば、右法条乃至その解釈は憲法に違反する。

(四)  株式(引受人)の存在しない株式払込金の支払請求は被控訴会社が株主権の附着しない株金の払込を請求することになり違法である。

(五)  元来被控訴会社控訴銀行間の株金払込取扱委託契約は偽造の株式申込証申込証拠金領収証等偽造文書を以て株金の払込を仮装する目的でなされた契約であるから、民法第九〇条に違反し無効でありその後の手続である保管証明書の交付請求及びその作成交付の一切の行為は無効である。

(六)  昭和二九年四月一六日現在の和田常蔵の控訴銀行京都支店当座預金残高は六、八〇二、三四四円であったことは明であり、この内三、五〇〇、〇〇〇円は滋賀相互銀行宛の小切手で入金され、手形交換所で決済され一、九九五、一〇〇円は右和田所有の不動産預金等を担保として現実に同人に対し貸付けられ、右資金を以て、和田は現実に払込をなしその返還をうけたものであったから、控訴銀行京都支店に関する限り現実の払込があり同支店については払込仮装の通謀はなく預合と解すべき根拠はない。

以上のように本件は所謂預合に該らず、該るとしても商法第一八九条第二項の適用が排除されると解することは資本充実の原則に反するものではない。資本充実の原理と云うも所詮政策的なものであり、一切の例外を認めないと云うものでなく、会社更生法第二五四条第二三六条第二五九条によれば更生会社の更生計画の実行として現実の払込をなさしめることなく新株の発行を認め、又商法改正法は失権株を再募集してもよいし、再募集しないで払込があった新株だけを発行したこととして変更登記を認めている。のみならず本件の如き場合商法第二八〇条の一三により取締役全員が共同して失権株を引受けるから会社の資本は之により填補されたことになり資本充実の原則に反するとは云えない。法が第二八〇条の一三のような規定をおいているのは、引受のない株式についてなされた保管証明書に基いて株金払込取扱銀行に対して払込金の返還請求権を有しない場合が存し得ることを法が予想していると云うことができる。

四、仮りに第一八九条第二項の適用があるとしても、禁反言の原則資本充実の原則による右規定と雖も、信義誠実の原則により支えられるものであり、本件の場合第一八九条第二項の責任を認めることは信義則或は衡平の原則に反し権利濫用である。

即ち株式引受がない場合には商法第二八〇条の一三により被控訴会社取締役全員が共同して被控訴会社主張の払込金に相当する新株を引受けたものと看做れ、右株式の共有関係を生じているから、この場合には被控訴会社は右引受人となった取締役に株金払込を請求すべきであり控訴銀行に対し一八九条所定の責任を認めるのは権利濫用である。又虚無人名義の株式の一部を代表取締役である阪上信章が処分しその代金を被控訴会社に入金しているのでこの限度で資本は充実され、かかる事情下で提起された本訴請求は右の限度で権利濫用である。そうでなくても、被控訴会社の本訴請求は虚偽の事実に基くもので善良の風俗に反するし信義則にも違反するし、更に被控訴会社が控訴銀行を欺罔し或は誘動して本件保管証明書を作成させ之を楯にとって本訴請求に及ぶことはクリーンハンドの原則に反し権利濫用である。

五、仮りに控訴銀行に保管金証明書記載払込金額の支払義務があるとしても、被控訴会社代表取締役及びその他の役員が共謀の上前記(三)記載の求償権の行使を不能ならしめる不法行為をなしたため、控訴銀行をして本訴請求同様の損害を蒙らずに至らせたところ、右代表取締役の不法行為により控訴銀行が蒙った損害につき被控訴会社に賠償責任が存するから、控訴銀行は本訴において、右損害賠償請求権を以て対当額で相殺の意思表示をする。

六、以上の主張が全て理由がないとしても、被控訴会社に対し控訴銀行大阪支店は昭和二九年四月一七日保管証明をした払込金の内金二、七〇〇、〇〇〇円については振出人和田常蔵支払人滋賀相互銀行なる小切手で残金については之を現金で全部返還し、控訴銀行京都支店は同月一九日その保管証明をした払込金を全部現金で返還したから本訴請求は理由はない。

七、仮りに以上の主張が認められないとしても、商法第一八九条第二項は法の認めた無因責任であり、商行為による債務でないから之に対する遅延損害金請求は年五分の限度においてのみ許容されるべきである」と述べ、

被控訴代理人において

「一、商法第一七八条の規定は追加指定の場合を予想したものでなく、払込取扱銀行の交替的変更の場合の規定であり本来会社は払込取扱銀行を自由に指定することができ、之について何等裁判所の監督に服する必要はないのに拘らず、変更の場合のみに裁判所の許可を要することになっていることからすれば、この許可は単に会社取締役に許可申請の義務を設定し、裁判所に監督権発動の機会を持たせたに過ぎない。即ち裁判所の許可は払込取扱銀行指定の効力要件ではなく、被控訴会社と控訴銀行との払込取扱委託契約は裁判所の許可がなくとも有効に成立するものと解すべきである。

二、商法第一八九条は同法第四九一条の預合とその範囲を異にし、苟も銀行が払込取扱銀行として取締役の請求に応じ証明書を交付した以上払込人との通謀の有無を問はず、錯誤により之を交付した場合であっても、同条二項の効果を生ずると解すべきであり、然らざれば同条の目的とする資本充実は期せられない。同条第二項は資本充実の目的達成のため払込取扱銀行が保管証明書を発行した場合無因的にその責任を負わしめた趣旨の規定である。そして会社取締役等が金融機関と通謀した預合の場合取締役の行為は会社の行為となるものではなく、本件の場合架空人名義を以て引受をなしたのは被控訴会社の取締役である阪上信章個人であり、被控訴会社自体ではあり得ない。従って之と異る見解を前提とする控訴銀行の主張は理由がない。即ち、被控訴会社の善意悪意を論ずる余地はなく、被害を受けたのは被控訴会社であり、被控訴会社と不正な手続により新株式を引受けた取締役等個人とは全く別個であるからクリーンハンドの原則の適用はなく、又被控訴会社は如何なる意味でも本件について損害賠償義務を負担する謂れはない

三、被控訴会社代表取締役であった阪上信章は被控訴会社に対し約七〇、〇〇〇、〇〇〇円の業務上横領をなし、之が弁済の内入として本件株式の一部を処分してその金員を入金しているが、会社の資本は株主の払込金を以て構成せられるのであって取締役個人の横領金の内入弁済によって充当されるものではない。

四、控訴銀行はその京都支店扱の六、五六四、六五〇円について現実の払込があったと主張する。しかしながら昭和二九年四月一六日には和田常蔵振出三、五〇〇、〇〇〇円の手形貸付で一、九九五、一〇〇円(貸付金二、〇〇〇、〇〇〇円中日歩差引残)が入金され、之に当日現在の同訴外人の預金残高一、三〇五、九三二円を合し都合六、八〇二、三四四円の預金が存することにして、六、五六四、六五〇円を別段預金に振替え、同月一九日には別段預金からそのまま六、五六四、六五〇円を当座に戻して入金し前記短期手形貸付の二、〇〇〇、〇〇〇円を期日をまたずして決済し、同月二一日に至って前記小切手を決済している。右小切手は同月一九日増資による変更登記が完了し、登記簿抄本が控訴銀行に提出されそれ迄帳簿上別段預金となっていた金員は和田の当座預金に戻されたから同日交換支払済となることは当然であり、控訴銀行京都支店はこの決済に基いて同額の小切手を決済しているのである。従って右小切手は単純に決済され然る後右和田の預金に入れられたものではない。即ち右は控訴銀行京都支店内部で現実に金を動かすことなく唯小切手の落落、和田の預金を店内伝票操作により帳簿上移動し、或は短期の手形貸付をするなどして帳簿上の形式を整えたものに過ぎない。そして変更登記の登記簿抄本の提出と保管金受領証の差入をまって和田の預金は原状に復し、手形小切手も決済されることについて、和田と控訴銀行京都支店との間に明示又は黙示の了解がある以上、控訴銀行は保管証明書記載の金額について支払責任を負担すべきは当然である。

五、払込金保管業務は正当な銀行業務であり、現に控訴銀行の正規の取扱手数料を徴しているものであるから、之を以て商行為でないとすることはできない」と述べ、

<証拠省略>。

理由

一、控訴銀行大阪支店及び京都支店が被控訴会社に対し被控訴会社主張の日その主張の株式払込金保管証明書を発行したことは当事者間に争がなく成立に争がない<証拠省略>。によりその成立の真正を認めることができる<証拠省略>を綜合すると、被控訴会社は昭和二八年一二月一〇日の取締役会に於て有償新株九七五、〇〇〇株を発行することとし、同二九年一月三一日午後四時現在の株主名簿記載の株主に対し所有株式一株につき一、五株の割合で割当てること、申込期間は同年三月二日より四月一〇日迄、払込期日同月一六日とし申込期日迄に引受のない株式の処理その他新株式発行についての必要な事項は取締役会で決定する等を決議し、右株式払込取扱銀行として株式会社三和銀行南支店を指定したが、申込期間経過と共に相当数の引受のない株式が生ずるに至ったことが明かになったため、被控訴会社代表取締役阪上信章取締役上田宗三郎同宮下好季監査役阪上忠雄は架空の引受人を始め且払込を仮装することにより有償新株全部について所期の通りその発行をなすことを共謀し、その手続を和田常蔵に依頼し同人は自己と取引関係のあった控訴銀行大阪支店及び京都支店の各支店長に協力を求め、両支店長とも之を承認し、払込取扱銀行を控訴銀行に追加的に変更したことにつき裁判所の許可を得ることなく、又株式申込証にも控訴銀行が払込取扱銀行として記載されることなく(但し変更登記申請にあたり添付された申込証には形式を整えるため特に控訴銀行が払込取扱銀行として記載されたものと推認される。)、控訴銀行大阪支店取扱分については架空の引受人である山根芳夫、山口晃章、中原良太が合計三七八、五二二株について、控訴銀行京都支店分については同様森田高が一三一、二九三株について、いずれも右払込期日に引受人として現実に払込をした如く仮装して冒頭記載の株式払込金保管証明書を発行したことが認められる。右認定に抵触する<証拠省略>は措信し難い。

二、右の事実によれば、被控訴会社の取締役等と控訴銀行大阪支店長及び京都支店長が通謀し新株式株金払込の仮装行為に出たものであって右は商法第四九一条の所謂預合に該るものと解せられる。そして資本団体である株式会社にあっては、会社債権者の担保となるものは会社財産のみであるから資本充実が強く要請されるところ、右要請に応じて同法第二八〇条の一四により準用される第一八九条第二項は新株発行後の会社資本の数額表示の基礎となる払込取扱機関の発行する保管証明書に対し一種の禁反言の原則を認め、払込取扱機関が新株発行会社と通謀して仮装払込について一旦保管証明をなしたときは証明した金額について新株発行会社に対し支払義務を免れないものとしたのである。従って右の立法趣旨に照すと、右の如く通謀を必要としている以上通常の禁反言の原則と偽って新株発行会社の善意であることを要件とするものでないことは勿論であり、株式申込証に払込取扱機関として記載されていない銀行又は信託会社が新株発行会社の代表取締役等の求めに応じ保管証明をなしたときも、右払込取扱機関の追加的変更についての裁判所の許可の有無を問わず、払込取扱機関として本条の適用があるものと解するのが相当である。

かく解する以上本件の場合の如く既に失権株が生じているにも拘らず引受があり且期日に払込があった如く仮装した場合も亦結論を異にするものではないし、又払込取扱機関と新株発行会社間の委任契約が私法上無効であることも払込取扱機関の前説示の責任に消長を及ぼすものでない。蓋失権株の存在、委任契約の効力如何に拘らず、仮装払込がなされた場合と雖も新株発行は全体としては当然無効と云うことはできず尚資本充実の必要が存するからである。

してみれば右と異る見解に基き控訴銀行が第一八九条第二項の払込取扱銀行に該らず或は該当するとしても同条に云う払込保管証明金額につき払込がないことを以て会社に対抗することができない場合には該らないとする主張(事実摘示中一、二、三、(一)乃至(五)、四の信義則違反及びクリーンハンド原則違反の各主張)は採用できない。

三、控訴銀行は京都支店に関する限り現実の払込があったと主張するが、成立に争のない<証拠省略>によっても、それは払込を仮装するため現実に金員を動かすことなく、控訴銀行京都支店が和田の同銀行に対する当座預金、同銀行の和田に対する短期貸付、滋賀相互銀行を支払人とする和田振出の小切手を以て一時的に同人の別段預金口座に振替え新株発行による変更登記と共に再度当座預金口座に戻し前記小切手については滋賀相互銀行に交付してある控訴銀行京都支店を支払人とする和田振出の同額の小切手で決済し貸付金は返済すると云う帳簿上の操作をしただけであってそれは預合にほかならず現実の払込があったとは到底認められない。

又控訴銀行は被控訴会社に対し払込金を返還したと主張するが、之を認めるに足る証拠はない。

四、控訴銀行は商法第二八〇条の一三による払込義務を無視して本訴請求をなすのは権利濫用であると主張する。なるほど本件の如き場合にあっても払込を仮装した部分については同条により被控訴会社に対し取締役全員が株式を引受けたものと看做れ、取締役は連帯して払込義務を負担するものと解するのが相当であるが、右の規定も商法第二八〇条の一四により準用される第一八九条第二項も新株発行に伴う資本充実に対処するための規定であって、前者による払込義務が存するからと云って後者による責任の追及が権利濫用とされる理由はない。

又虚無人名義の株式の一部を阪上信章が処分しその代金を被控訴会社に入金しているからこの部分についての本訴請求は権利濫用であると主張するが、仮りに右の如き入金があったとしても之が前述の商法第二八〇条の一三による連帯責任としてなされたものとする主張立証はないからその余の点を判断する迄もなくその主張は採用の限りでない。

五、控訴銀行は求償権の成立を不而ならしめた被控訴会社の不法行為に対する損害賠償請求権を以て、払込返還債務と対当額で相殺する旨主張するが、控訴銀行の云う不法行為とは冒頭認定の事実からすれば、結局被控訴会社代表等が控訴銀行と通謀してなした預合行為と云うほかはなく仮令、払込仮装行為の過程にあって引受が架空であることを控訴銀行が知らなかったとしても、控訴銀行自体は被控訴会社に対する共同不法行為者にほかならないからその余の点を判断する迄もなくその主張自体失当と云うほかはない。

六、控訴銀行は遅延損害金は年五分の割合による限度のみ許容されるべきものと主張するが、払込取扱機関が新株発行会社との新株払込取扱委託契約に基て真正に払込まれた払込金を新株発行会社に返還すべき債務は商行為により生じた債務であることは明かであり、商法第一八九条第二項は仮装払込を通謀し払込保管証明書を発行した払込取扱機関をして有効な払込があった場合と同一の保管証明書記載の金額を返還する債務を負担する趣旨の規定であることは前示の通りであるから、それは本来の商行為債務と実質上同一である債務と云うことができ、商行為により生じた債務と解するのが相当であるからその主張は採用できない。

七、してみれば控訴銀行は被控訴会社に対し本件株式払込金保管証明にかかる合計二五、四五〇、七五〇円及び之に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四〇年二月一二日以降完済に至る迄商法所定年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、右と同旨の原判決は相当であって本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条第一項により之を棄却することとし、<以下省略>。

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